日蓮聖人降誕800年
日蓮宗全国霊断師会連合会
日蓮大聖人が歩まれた道 日蓮大聖人が歩まれた道

#003
お誕生(その二)

「日蓮は日本國の中には安州(あんしゅう)のものなり。総じて彼國(かのくに)は天照太神のすみそめ給いし國なりといえり。かしこにして日本國をさぐり出し給う。あは(安房)の國御(み)くりやなり。しかも此國(このくに)の一切衆生の慈父悲母なり。かゝるいみじき國なれば定(さだん)で故ぞ候らん。いかなる宿習にてや候らん。日蓮又彼國に生まれたり、第一の果報なるなり」
(彌源太殿御返事)

日蓮大聖人さまは、ご自身のお生まれになった安房の国に大変ご執心なさっておられました。それは単に生まれ故郷であるという以上の強い思い入れを感じさせます。この御文章にも見られるように、そこには何らかの深いご縁があったのやもしれません。それはまた、いずれかの機会にお話させていただきましょう。

時は人王第八十五代後堀川天皇の治世、貞応元(一二二二)年二月。安房の国では一足早い春を迎え、海辺の人々は穏やかな日々を送っていました。房州といえば何と言っても花どころです。年明けとともに梅の花がほころび始め、二月ともなれば菜の花がそこかしこで花を咲かせ、どこよりも早い春の訪れを楽しみに沢山の観光客がこの地を訪れます。まして旧暦二月といえば現在の三~四月上旬にあたりますので、とても暖かい日差しの中で、海の恵みを存分に受けた漁師や海女たちの笑顔が目に浮かびます。

華やかな都の暮らしからは遠く離れ、日の出とともに一日が始まり、日が暮れれば一日が終わる。毎日なんら変わることのない、平凡な暮らしを続ける片田舎の村でしたが、やがて漁民たちを驚かす不思議な出来事が起こり始めるのです。

それに先立つこと十ヶ月程前のこと、梅菊はある不思議な夢を見ました。常日頃から日天子を深く信仰し、毎朝旭に向かっての礼拝を欠かしたことのない梅菊でしたが、ある晩眠りにつくと、まばゆいばかりの光が海辺より寝所へと近づいてきました。やがて目前に迫ったその光を見れば、驚くことにそれは蓮華の花に乗った日輪ではありませんか。「これは何と有り難きこと、日天子さまのお出ましにて、如何なる吉祥にございましょう」そう思うやいなや、その日輪は梅菊の胸の内にすうっと消え入ったのでした。ふと目を覚ました梅菊は急ぎ辺りを見回しますが、そこにはいつもと変わらぬ浜辺の風景、月の光に照らされて水面が輝き、夜の静けさの中にたださざ波の音が聞こえてくるだけでした。

明くる朝、本当に不思議な夢を見たものと思いながらも、その話を夫重忠に告げると「それはまこと不思議なこと、日頃より日天子を敬うそなたに、何か大切なお告げを下されたに相違ない」と大変喜びました。それから程なくして梅菊は、その身に新しい命を宿していることに気付くのです。「何と、あの夜見た夢の日輪はこの命であったか」、二人がすぐにそう気付いたことは言うまでもありません。

小泉輝泰

小泉輝泰

宗会議員
霊断院教務部長

千葉県顕本寺住職

バイクをこよなく愛するイケメン先生

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