日蓮聖人降誕800年
日蓮宗全国霊断師会連合会
よろこび法話 よろこび法話

#069
清浄平安の浄土を考える

大分県妙親寺聖徒団団長
連合会九州教区長
大分県霊断師会会長
廣田学良

新型コロナウイルスの感染が以前にも増して拡大されワクチンによる終息が切実に願われます。

思えば人類の歴史は幾多の苦難と共にあり、多くの被害、犠牲を払いながら智恵を絞り、解決の方途が拓かれてきました。これはいかなることがあっても屈しない。この信念があればこその成果であり、困難に立ち向かう一丸の精神。私たちは今ひしひしと異体同心の大切さを自覚させられています。

いずれにしても生命の存続に直結している環境問題、生活を支えるエネルギー問題等で、今までの資源消費をもととする文明観から自然と協調するライフスタイルが重視され、今後私たちは修正の時代を迎えることになるでしょう。

さてご存知のように鎌倉時代にも飢饉や疫病が蔓延し、それによる犠牲がありました。日蓮大聖人の立正安国論執筆の動機もここにあり、文頭にはその惨状と嘆きがせきららに綴られ、安国を願うことが一貫した論旨となっています。現代の眼鏡をもって理解すれば病気に対する治療のように、病気の原因の分析から始まり、原因をつきとめ治療を施す。正を立てる立正とは治療薬であり、薬の効能によって平癒するのが国を安んじる安国となります。確かに立正安国論は鎌倉時代を背景とし、宗教的治療を視点とする論書ではあります。しかし自然現象とこの中に生きる私たちの関係性を深刻に見つめることには現代科学の姿勢と何の相違もありません。

清浄平安の浄土を考える

大聖人は飢饉や疫病がいかなる原因によって発生するのかを自問し、一切経を依処として、衆生が正しい思想のもとに生活できていないことが最も大きな原因であると論断されたのであります。この正しい思想を鏡として映し出される現実のゆがみ、この惨状を救う唯一の正法が法華経であるとの結論を得「信仰の寸心を改めよ」と緘言されたのであります。

つまり法華経の教えによる法華経的生活、久遠のご本仏の大慈悲と共にある全体生命の総和、この実現こそが大聖人のご生涯であり環境問題に解答を得た立正安国論の趣旨であったのであります。

佐渡苦境の中においてご教示された観心本尊抄の法華経に説くこの世界の真実今本時の娑婆世界は三災を離れ四劫を出でたる常住の浄土なり

のお言葉のように、いかなることがあってもこの世界の本質は穢土ではなく浄土である。お題目の信仰(立正)をもってすれば社会不安・不調和相は平癒し、本質の浄土(安国)が顕現されてくると言う思想改善による解決の道を確信されたのであります。

清浄平安の浄土を考える

そのためには仏教についての間違った認識が当然是正されなければなりません。この信念による強い実践が認識を異にする側からの法難となったことは読者の皆さまがご承知のところでありますが、大聖人にはこの数々の法難もまた法華真実の証明として確信は益々深められていくことになるのです。

このように大聖人のお題目信仰は実に徹底した証明の宗教、言わば科学的宗教であったと言っても過言ではないのです。

思想と自然現象の関係性は一般的には理解しにくいことかもしれませんが、この思想をこの世界への正しい考え方と表現を変換すれば科学的思考となり理解されてくるでしょう。

私たちはこのような時にこそ宗教についての目を開き、大聖人の教えを現代的に見直し、現実に一致する信仰を再考しなければならないのです。

久遠のご本仏と結ばれる倶生神月守着帯によるお題目信仰が目指すものは清浄平安の浄土をこの世界に築くことに外なりません。

ウイルスのワクチンによる終息は近い日との朗報ですが、迷信のウイルス感染はもっとしたたかなのです。

※この記事は、教誌よろこび令和3年2月号に掲載された記事です。

イラスト 小川けんいち

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