日蓮聖人降誕800年
日蓮宗全国霊断師会連合会
日蓮大聖人が歩まれた道 日蓮大聖人が歩まれた道

#005
お誕生にまつわる秘話
(その一)

お誕生にまつわる秘話

それは古い古い神話の時代のお話です。四国は阿波の宮に住まう天富命(あめとみのみこと)は、綿や麻の栽培に適した地を探し求め、一族を伴い長い船旅に出立しました。南西より流れる黒潮の海流に乗って船を進めて行くと、やがて適度な平野の広がる半島へたどり着きました。一族はその地へ定住することを決め、土地を開墾し、貴重な綿や麻を豊富に育てることが出来たのです。またその地は豊富な海の幸にも恵まれ、ことに大粒の鮑は西国の神々への供物として珍重され、やがてこの地は東国の要地として栄えていったのです。

これが日蓮大聖人のお生まれになった、安房の国の発祥として語り継がれている伝記です。そもそも「安房」という地名は、遙か遠い一族の故郷「阿波」を思い付けられた名であるとされ、その他にも「瀬戸」や「白浜」そして「勝浦」など瀬戸内に関連する地名が各所に見受けられます。

天富命の率いる一族は天津小湊地域より上陸し、続いて一帯を見渡す為に登山したのが清澄山であったと伝えられています。清澄寺には今でも北辰妙見大菩薩(北極星の神様)がお祀りされていますが、それは一族が新天地として記した旗印の名残であるとも言われています。また清澄寺より更に奥へ向かうと、そこには伝承を偲ばせる「麻綿原(まめんばら)」と呼ばれる場所も現存しているのです。

天富命はこの地への定住を決意すると、まず一族の先祖をお祀りしました。それが安房神社(千葉県館山市)に祀られる「天太玉命(あめのふとだまのみこと)」です。天太玉命はこの日本国の誕生である天孫降臨の際に、瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)に従って共に天降ったとされる神で、『日本書紀』には、天照大神の宮を護る守護神であるとも紹介されています。その末裔である一族によって開かれたこの安房の国は、まさに日蓮さまがお示しになった「天照太神のすみそめ給いし國なり」(彌源太殿御返事)であり、神々の住まう「天津」の名がそれを強く示しているのです。

以前にご紹介致しました『彌源太殿御返事』にもあるように、日蓮さまはご自身がこの地に深い縁を結ばれたことを大変お喜びになり、また一方で大変強い関心をお持ちになっていたご様子も伺えます。それは何故でしょうか、先月お話しした「善日麿」という漁師の子らしからぬお名前も含め、そこに大変な秘密が隠されているようにも思えます。

この御消息(お手紙)を送られた彌源太殿は北条一門に連なる武将で、一般の檀越とは違い様々な事情にも精通した立場の方でした。そのお方に対し、同書状にて「此消息の詮にあらざれば委(くわしく)はかゝず、但おしはかり給べし」と何やら含みを持たせた様にもとれるお言葉を述べていらっしゃるのです。

謎は深まるばかりですが、続きはまた次号で。

イラスト 小川けんいち

小泉輝泰

小泉輝泰

宗会議員
霊断院教務部長

千葉県顕本寺住職

バイクをこよなく愛するイケメン先生

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