日蓮聖人降誕800年
日蓮宗全国霊断師会連合会
よろこび法話 よろこび法話

#033
ダンプカーと衝突、生還、そして今がある

愛知県名古屋市常泉寺聖徒団団長
矢島 文昭

それは今から十四年前、平成十五年二月二十五日早朝の出来事です。前日の夜遅くから雪が降り、二~三センチ積もっておりましたが、幹線道路は運転するのに支障はないと皆思っていました。遠寿院大荒行堂が二月十日を以って閉堂し、その事務所に勤めていたお上人や関係者と共に、ご慰労の温泉とゴルフコンペに行く途中の出来事でした。

乗用車を先頭にワンボックスカー二台が続き、千葉県市川市を出発しました。順調に目的地の千葉県南部に向かっていましたが、徐々に乗用車とワンボックスカーとの距離が離れてきました。乗用車に追いつくためにワンボックスカーのスピードを少し上げて橋を通りかかったとき、一瞬、車が浮き上がった様に感じました。道路と橋の境目の鉄板でタイヤが滑ったのでした。

運転手が大声で「ごめん!ぶつかる!」と叫びました。前を見ると目の前にダンプカーが。そのあとの記憶はありません。遠くの方から「大丈夫ですか!名前は、お年は、生年月日、お住まいはどこですか!」と繰り返す救急隊員の声は聞こえるのに、返事が出来ませんでした。段々と意識が甦ってくると、顔全体に火が付いたように熱く痛い。救急隊員が「この人はまだ意識があるようだ。ズボンを切りますよ、いいですか。洋服もいいですか」と聞いてきましたが、私はかろうじて頷くだけ。

ダンプカーと衝突、生還、そして今がある

救急車で病院に運ばれ、手術室の手前で「出血が多いので、ここで応急手当をしないと手遅れになる」と医者の声が聞こえ、麻酔を注射されたのか、ここで意識が無くなりました。次に目が覚めると病室のベッドでした。

友人たちがお見舞いに来てくれていたので、とっさに他の三人はどうなっているのかを聞きました。すると、二人は軽傷だが、ワンボックスカーの運転手は事故の衝撃で体がフロントと運転席に挟まり、レスキュー隊がチェーンソーを使って助け出してくれたが、今は他の病院で生死を彷徨っていると聞かされました。「何とか生きてくれ」とひたすら祈ることしかできませんでした。また、ダンプカーの運転手はぶつかった弾みで車ごと下の川に落ちてしまったが、幸い水量が適度のクッションになり、更に水量が腰の所までだったので溺れずに済み、一命を取り止めたと聞きました。本当に良かったと、ベッドの上で涙が溢れてきました。大事故でしたが偶然が重なり、誰も命を落とさずに済んだことはご本佛様・お釈迦様・日蓮大聖人様のご加護だと強く感じました。

翌日のレントゲン検査で、「顔面陥没、鼻骨が潰れて眼球の骨が折れている。前頭骨にもひびが入り、頬骨も折れている。また、左肩複雑骨折と左足膝複雑骨折です」と聞かされ、初めて左側の感覚がないことに気付きました。先生は「事故の時にうつ伏せだったから助かったのですよ。仰向けでいたら気管支に血が詰まり、呼吸困難で亡くなっていたでしょう」と言われました。更に、ダンプカーはこれから砂利を積みに行く所で、もし砂利を積んだ状態での事故だったら全員亡くなっていたでしょう、とも言われました。

私はその後、名古屋の日赤病院に転院し約十一時間の顔面復元手術を受けました。チタンなどの金属を使って元通りの顔に近づけるのですが、レントゲンで見るとまるでターミネーターのような顔でした。最初の二週間は寝たきりで、その後歩行器を使って歩く練習や左腕左足のリハビリを行いました。顔は四回の形成外科手術を受け、なんとか元の顔に戻りました。

ダンプカーと衝突、生還、そして今がある

ある日病室で寝ていると、遠くから「よいかな、よいかな、釈迦牟尼世尊、よく平等大慧 教菩薩法 佛所護念 妙法華経をもって…」と法華経見宝塔品第十一の一説が聞こえると、病室の奥から黄金の菩薩様四体が涌き出てきました。こちらを見て微笑んでいるような神々しいお顔は、どこか不思議な感じで、幸せな気持ちになったことを覚えています。おそらく十秒位ですーっと消えてしまいましたが、事故のことを思い返してみると、目に見えないものに護られていることを強く感じました。

退院して法務に復帰しながら、リハビリを続けて一年半ぐらいたった頃、病院でお会いした四菩薩様がどうしても頭から離れず、新たに本堂に安置させていただこうと五月に決めました。発注すると十月末頃に納入できるとの事でしたから、新しい四菩薩様を霊験あらたかな大荒行堂の百日間中堂(読経三昧堂)に安置させていただき、行僧の経力と霊験をいただこうと考えていました。

しかし後日、本堂での朝勤中に「自分で入行して四菩薩様にお経をあげたらいいですよ」と聞こえた気がしました。また、耳の奥底で「よいかな、よいかな、釈迦牟尼世尊…」と聞こえてきて、私は四菩薩様と一緒に大荒行堂に入ると決めました。入行中の百日間、事故でみんなの命が助かり元気になったことを、諸天善神・大尊神に感謝し、報恩感謝のお経をあげさせていただき、平成十八年二月十日に無事成満できました。ご本佛様・お釈迦様・日蓮大聖人様・ご守護神様に感謝し、私に係わる縁のある方々に感謝・感謝・感謝で、今があります。

※この記事は、教誌よろこび平成29年9月号に掲載された記事です。

イラスト 小川けんいち

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