日蓮聖人降誕800年
日蓮宗全国霊断師会連合会
よろこび法話 よろこび法話

#022
彼女が気づかせてくれたこと

東京都新島村 長栄寺聖徒団
光枝 妙珠

生かされるよろこび

健康な時には、まさか自分が病気になるとは誰も思っていません。人間ドックにて異常なしの診断を受けたYさんはとても忙しい毎日でした。二か月後、あまりの不調に耐えられず診察の結果は、進行性の胃ガンの宣告でした。世話好きで職場でもどこでも気配りのできる彼女は私の幼馴染であり親友です。保育士として責任感の強い彼女は、全てを背負ってしまう程の仕事ぶり。地域のボランティアでも活躍していました。

突然の癌宣告は、手術もできない深刻な状態となっていたのです。悔しい気持ちとこの先の不安。真面目に頑張っていたのに、なぜこんな病気にならなければならないのか。本人も周囲の人も回復を願い毎日毎日ひたすら祈り続け、彼女も希望を持ち続け治療に励みました。

私は本堂の大太鼓をお題目を唱えながら叩く時、癌が消滅するようにと願い、住職は、私が家を空けることを快諾してくれた為、一週間病院に寝泊まりし、痛みに苦しむ彼女の背中をお守で撫で共に戦いました。限られた時間の中で共に過ごしてきた人生を振り返り、この世で出会えたご縁に感謝しつつ出逢った人全てが逢うべくして逢えていること、突然この世に生れてきたのではなくご両親をはじめとする人たちの過去を受け継いで生まれ自分では気づかない前世からの因により、いろいろなことが起こる事等、沢山沢山話をしました。

もっと一緒に年齢を重ねおばあちゃんになってもお互いを支え合う時間を過ごしたかったのですが、その想いは叶わず、僅か一年後には帰らぬ人となってしまいました。行年五十二歳。通夜・葬儀には大人から子供まで大勢の方々が参列なさり別れを惜しみました。彼女の行動は彼女の生きた証として全ての方々の心に深く刻みこまれ、感謝と共に惜しまれるお別れでした。

喪失感と悲しみを癒すのにはとても時間が必要でした。そんな中で二度の不思議な体験がありました。初七日より七日ごとの忌日法要をご家族・友人と共に毎回丁寧なお供養を致しました。七七日(四十九日)忌の前日に夢の中で彼女が「準備ができたから先に行ってるね」と笑顔で手を振り、ドアを閉めて行ったこと。半年経った頃、悲しくて彼女を思い続けていた時「いつもここに居るじゃん」と言って満面の笑顔で私の前に立ち、信じられない私は何度も何度も腕や体に触り暖かいぬくもりを感じ嬉し涙を流し、夢で逢った事に気づいたのです。

生かされるよろこび

彼女は本当にこの世から居なくなってしまいましたが、夢の中で逢った彼女はとても満足している姿でした。人はいつか死を迎えるものです。この世に生まれて来て、誰しもが天寿を全うしたいと願うのに、現実にはその願いはなかなか叶いません。又、身近な人の死を受け入れるのにはとても時間がかかります。

しかしその死によって、生かされている自分が見えてきます。

我が己心の妙法蓮華経を本尊とあがめ奉りて、我が己心の仏性南無妙法蓮華経と呼び呼ばれて、顕れ給う処を仏とは云也。譬えば籠の中の鳥なけば、空飛ぶ鳥のよばれて集まるが如し。空飛ぶ鳥の集まれば籠の中の鳥も出んとするが如し。口に妙法をよび奉れば、我が身の仏性もよばれて必ず顕れ給う。梵王、帝釈の仏性はよばれて我等を守り給ふ

華初心成仏鈔

彼女の命を救うことはできませんでしたが、法華経の功徳により、短くとも濃い人生だったこと。周りの人が力を合わせ、異体同心にて、彼女と共に病気と闘ったこと。ご両親がその後もお題目の信仰を捨てずになお一層信行に励んでいること。彼女の残した功績は、眼に見えない力となって生き続けているのです。

イラスト 小川けんいち

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