日蓮聖人降誕800年
日蓮宗全国霊断師会連合会
日蓮大聖人が歩まれた道 日蓮大聖人が歩まれた道

#080

石渡左衛門尉の挺身

佛の滅後において四味三教等の邪執を捨て、実大乗の法華経に帰せば、諸天善神ならびに地涌千界等の菩薩、法華の行者を守護せん。この人は守護の力を得て本門の本尊・妙法蓮華経の五字を以つて閻浮提に広宣流布せしめんか」

顕佛未来記(けんぶつみらいき)

不思議な猿に導かれ、ようやく目指す半島を目前にした一行ですが、逸る気持ちとは裏腹に船は一向に先へ進もうとはしません。

それもそのはず、猿島より陸地へ至る一体は延々と浅瀬の続く遠浅の浜で、船を漕ぎ入れるには水深が足らず、かと言って歩くには距離も深さもある難儀な場所でした。まして衣をまとった坊さまに、ずぶ濡れになって海の中を歩かせるわけにもゆかぬもの。船頭もほとほと困り果てていたところ、一人の男が袴の裾をたくし上げ、海の中をこちらに向かって来たのです。「見るに難儀をしているご様子。どうぞ私の背におつかまり下さい」。そう言うと、その男は大聖人を背負って陸へ歩き出しました。

猿石渡左衛門尉の挺身

無事に陸地へと送り届けられた大聖人に、その男はこんな話を告げました。「私は昨夜不思議な夢を見ました。その夢は、東方より高貴な方が訪れるというお告げなのです。そこで今朝方より海を見ておりますと、あなた様が船で立ち往生しているご様子。お告げはきっとこのお方に違いないと、急ぎお助けに参った次第にございます」。大聖人は「それは大変有り難きこと。どうか貴殿の名をお聞かせ願いたい」と訪ねると、その男は「公卿村の石渡左衛門尉と申します」と名乗りました。

猿石渡左衛門尉の挺身

この者の出来はきっと諸天のご守護に相違ないと思いながら、ふと改めて左衛門尉の姿を見ると、その足下は傷だらけで血に染まっているではありませんか。これは何事かと訪ねれば、「これは今し方浜のサザエで切ったものです。どうかお気に召されるな」と知らされました。それは不憫と思い、大聖人が再びお題目をお唱えすると、不思議なことにそれ以来この浜のサザエには角がなくなってしまったと伝えられています。

この者を大変気に入られた大聖人は、雨風を凌ぐのに格好の岩屋を見つけられると、そこに一月あまり滞在しました。そして左衛門尉の庇護を受けながら、鎌倉布教の成就を祈願されたと言われています。後にこの場所には聖人垂跡の聖地として「御浦法華堂」が結ばれ、現在に続く猿海山龍本寺の礎となるのです。

イラスト 小川けんいち

※この記事は、教誌よろこび平成30年7月号に掲載された記事です。
小泉輝泰

小泉輝泰

宗会議員
霊断院教務部長

千葉県顕本寺住職

バイクをこよなく愛するイケメン先生

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