日蓮聖人降誕800年
日蓮宗全国霊断師会連合会
日蓮大聖人が歩まれた道 日蓮大聖人が歩まれた道

#078

嵐の船出

今はかまくら(鎌倉)の世さかんなるゆへに、東寺、天台、園城、七寺の真言師等と、並びに自立をわすれたる法華宗の謗法の人々、関東にをちくだりて、頭をかたぶけ、ひざをかがめ、やうやうに武士の心をとりて、諸寺・諸山の別当となり、長吏となりて、王位を失ひし悪法をとりいだして、国土安穏といのれば、将軍家並びに所従の侍已下は、国土の安穏なるべき事なんめりとうちをもいて有るほどに、法華経を失ふ大禍の僧どもを用ひらるれば、国定めてほろびなん

撰時抄

「いざ鎌倉へ《、大聖人を乗せた船は三浦半島を目指して海路を西へ進みます。半島の東岸には、浦賀水道に面して潮通しのよい走水港が古くから整備されていました。順調にいけば、そこを目指して上陸と相成る手はずであったと思われますが・・・。やはり正法弘通の行者には、常に魔が立ちはだかるのでしょうか。今まで穏やかであった海が、突然の嵐で荒れ狂い始めたのです。

嵐の船出

大聖人を乗せた小舟はまるで木の葉のように波に弄ばれ、もはや往くことも戻ることも出来ません。やがて船底には三寸もの穴が開き、そこから勢いよく海水があふれ出してきました。数えきれぬほど海を往来した水夫ですら、最悪ともいえるこの状況に慌てふためき、このまま海の底へと消えることを覚悟しました。「あぁこの坊さまも気のどくなことよ《そう思いながらふと客僧に目をやると、驚くことにまったく怯える様子もなく、とても穏やかな面持ちではありませんか。そして何やら聞き慣れぬお経を、一心に唱えているのです「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無・・・「これはありがたや。ここで会ったも何かの縁じゃ。坊さまの唱える経で送られるなら、わしとて阿弥陀さんとやらの所に一緒に往生出来よう《。船頭は観念したかのように、手を合わせて静かに目を閉じました。するとどうしたことか、今まで轟きのように鳴り響いていた風の音が止み、静かなさざ波の音が聞こえ始めたのです。これは何事かと目を開けてみると、目の前には先ほどの嵐とは打って変わり、穏やかな海原が広がっています。

故郷との別れ

誰よりも海をよく知る水夫には、にわかには信じられない出来事ではありますが、とにかく命拾いをしたことは確かです。そういえばあの穴はどうしたかと船底に目をやると、こちらも何事もなかったかのように収まっています。よく見ると上思議なことにその穴には、まるであつらえたかのように鮑がピタリと張り付いていたのです。

何やら狐につままれたような心地だが、とにかく上思議な坊さまのおかげで助かったと胸をなで下ろす水夫の目前には、小さな島が近づいていました。

イラスト 小川けんいち

※この記事は、教誌よろこび平成30年5月号に掲載された記事です。
小泉輝泰

小泉輝泰

宗会議員
霊断院教務部長

千葉県顕本寺住職

バイクをこよなく愛するイケメン先生

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