日蓮聖人降誕800年
日蓮宗全国霊断師会連合会
日蓮大聖人が歩まれた道 日蓮大聖人が歩まれた道

#035

戒体即身成佛義かいたいそくしんじょうぶつぎ
その二

真言宗と申は一向に大妄語にて候が、深其根源をかくして候へば浅機の人あらはしがたし。一向誑惑せられて数年を経て候

本尊問答抄
戒体即身成佛義

『戒体即身成佛義』の内容からは、蓮長(れんちょう)が既に法華経の重要な教義、即ち後に日蓮大聖人の教えの中枢となる教義を理解していたことが覗い知れます。しかしながら、それが他のお経に抜きん出て最も素晴らしい教えであるとの結論には、残念ながらいまだ至ってはいなかったのです。

蓮長が学んでいた当時の清澄山は、当然ながら台密(天台密教)の教えが中心として学ばれていました。そのために、天台法華宗の高僧である慈覚大師(じかくだいし)、智証大師(ちしょうだいし)の教えを色濃く受け継いでいたものと思われるのです。この二師は、天台宗の中心的なお山として名高い比叡山の第三、第五代座主(ざす)という高位にありながら、台密のみならず、真言の密教を盛んに弘めたことでも知られているのです。

その教えの特徴としては、「顕密二教(けんみつにきょう)」と「理同事勝(りどうじしょう)」が挙げられます。法華(法華経)、真言(大日経)の二経を大切としながらも、法華経を「顕経(機根の劣った者にも分かり易く簡単に示す)」と「密教(覚った自分にしか理解できないような秘密の内容)」に分けた「顕密二教」に分別し、その上で「理同事勝」にてその二つを判じるのです。

「理同」というのは、法華経に説かれる一念三千の大切な教義は、大日経にも同じ理論が説かれているので理(法)としては同価値であるとします。その上、更に真言宗には印身業(しんごう)と真言口業(くごう)の秘法があるので、意業しかない法華経よりも優れている、つまりは「事勝」であるとするのです。

戒体即身成佛義

これには実に大きな間違いがあり、事勝どころか一念三千の法門ですら大日経の経意では足下にも及ばないような大秘法であるのですが、『戒体即身成佛義』の内容を見るに、まだ当時の蓮長にはその誤りに気付くだけの機は備わらず、二師の教義を素直に受け入れているようです。それも致し方のないこと。当時の清澄山中はもちろんのこと、最新の学問が集まる新都鎌倉でさえも、その過ちを正すことの出来る環境にはなかったのです。

日蓮大聖人が冒頭でご紹介した『本尊問答鈔』をご執筆されたのは、御年五十七歳の時です。それは蓮長が『戒体即身成佛義』を記してより、三十五年の歳月を経たことになります。もちろんそこまで気付かずとは言いませんが、この文中にて大聖人ご自身が仰せの通り、いまだ勉学の途にあった若き蓮長には、当時学んだ全ての知識を集約しても、真言宗の過ちに気付くことは到底出来ず、この後数年の更なる修学を要したのです。

イラスト 小川けんいち

※この記事は、教誌よろこび平成26年6月号に掲載された記事です。
小泉輝泰

小泉輝泰

宗会議員
霊断院教務部長

千葉県顕本寺住職

バイクをこよなく愛するイケメン先生

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