日蓮聖人降誕800年
日蓮宗全国霊断師会連合会
日蓮大聖人が歩まれた道 日蓮大聖人が歩まれた道

#021

くうぞうさつへの願い
(その二)

日本第一の智者となし給へと申せし事を、不便とや思し食しけん。明星の如くなる大宝珠を給ひて、右の袖にうけとり候し故に、一切経を見候しかば、八宗並に一切経の勝劣ほぼこれを知りぬ

(清澄寺大衆中)

わずかに差し込むだけの薄明かりと、言葉を交わす者なき静寂。蓮長(れんちょう)が虚空蔵菩薩の御前にて願を掛けてより、早二十日が過ぎようとしていました。そしていよいよ二十一日目の朝を迎えた時、不思議な光景を目の当たりにしたのです。

それまで暗闇に包まれていた筈の堂内は突如として光り輝き、目にするものすべてが眩いばかりの金色(こんじき)へと変わっていきます。やがて正面の一層輝く光の中から、高貴な姿の僧が現れました。高僧は蓮長に向かって静かに左の手を差し出しました。その手には明星のように光り輝く宝珠を携えているのです。そこで蓮長は悟りました、「このお方は大虚空蔵菩薩に相違ない」。

そう思うや否や、高僧は蓮長の衣の袖にその宝珠をそっと忍ばせ、再び光の中へ消えて行きました。「ただ願わくば、日本第一の智者となし給え」・・・。死を覚悟して寝食を断ち、一心に祈り続けた蓮長の切なる願いが、ついに虚空蔵菩薩の大慈悲の御心に届き、智慧の大宝珠を授かったのです。数日にわたる厳しい修行に衰弱しきった身体は、かろうじて心の蔵を動かすのみでしたが、しかしその心は大きな悦びに包まれていました。

眩い朝の日差しの中、満願を果たした蓮長は、一歩一歩お堂の階段を降りて行きます。そして最後の段を降りた時、突如どっと鮮血を吐き出し、そのままひれ伏すように倒れ込んだまま、意識を失ってしまいました。

虚空蔵菩薩への願い

通りかかった兄弟子たちは、その姿を見るや慌てて駆け寄りました。そっと蓮長を抱き起こしたところ、ふと目覚めるように意識を取り戻しました。辺りを見れば蓮長が吐いたと思われる血の痕、蓮長が修めた行の厳しさを思えば、皆その身を案じずにはいられません。しかし蓮長は不思議と何の不調も感じることなく、却って心身共に澄み切った心地なのでした。

蓮長は凡夫の身に流れる血(凡血)をすべて吐き出し、清浄なる身としていよいよ新しい人生を歩み始めたのです。

この時に吐いた凡血は、周囲の笹の葉を真っ赤に染めました。以来この場所に生える笹には、血に染まったような不思議な斑点が現れるようになったのです。今でもこの清澄寺摩色尼殿(まにでん)(虚空蔵菩薩をご安置するお堂)の傍らでは、この逸話を偲ばせるような「凡血(ぼんけつ)の笹(ささ)」を目にすることができます。

イラスト 小川けんいち

※この記事は、教誌よろこび平成25年3月号に掲載された記事です。
小泉輝泰

小泉輝泰

宗会議員
霊断院教務部長

千葉県顕本寺住職

バイクをこよなく愛するイケメン先生

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