南無妙法蓮華経とは名前、それも二つの存在を同時に現す不思議な名前です。一つは読んで字の如く、お経のタイトルとしての名前です。それもただのお経ではありません。ご本佛釈尊の本懐を説く最高のお経、いわばご本佛釈尊の功徳が余すところなく説き尽くされた、まさに諸経の王たるお経なのです
釈尊の因行果徳の二法は妙法蓮華経の五字に具足す。我等此の五字を受持すれば自然に彼の因果の功徳を譲り与へたまふ。
観心本尊抄
名前こそは、その名の示すものの本質であり、実態そのものです。さればこそ、南無妙法蓮華経というタイトルの一言には、法華経の本質たる、ご本佛釈尊の功徳の全てが納められていることになります。実はこの功徳は、大きく二つに別けられるのです。
一つはご本佛となるための原因です。すなわち、お釈迦様がご本佛となられるまでの、無限ともいえる果てしなき時の流れの中で、輪廻転生を繰り返しながら積んでこられた修行の功徳や、究極の位に至るまでの全ての経験値です。
そしてもう一つは、ご本佛となられた結果です。つまり佛道修行による向上の極地、ご本佛となられたことで獲得された、究極の悟りの境地のことです。
南無妙法蓮華経の中には、ご本佛となるための原因(本因)と、ご本佛となられた結果(本果)、その二種類の功徳全てが、たった七文字の中に込められているわけなんですね。
故に私たちは、この七文字を信じ唱えることで、そのままこの本因と本果の大いなる功徳を、ご本佛釈尊から直接頂戴できるんです。
これってゲームに例えれば、コツコツと弱い敵を倒しながらレベルアップしなければならないところを、特殊なパスワードを入力したら、アララ不思議!たちまちレベルがマックスに、といった感じですな。まあゲームだとインチキだけど、大事な人生にとっては、これぞ救いの決定打なんですね。
お経のタイトルこそが、実はご本佛釈尊から私たちへ与えられた、究極の贈り物を受け取るための、大切なキーワードだったわけです。
ご本佛釈尊とは、御存じの通り霊山浄土という最高の佛国土に居ますお方です。そこから私たちに、本因本果という究極の贈り物をお授け下さるわけですから、これは(救いのレベルは違えども)西方浄土からの阿弥陀佛の救い、東方浄瑠璃世界からの薬師如来の救い、オリンポスの頂きからの雷神ゼウスの救い、ヴァーラスキャールヴからの最高神オーディンの救い等々と同様、いわば外部からもたらされる救い、外から与えられる救いということになります。
ああ、されどされど、残念ではありますが、実は私たちが本当の意味で救われるには、ただ外から与えられる救いだけでは足りないんです。そう、外があれば内もある。外と内、両方そろってこそ真の救いがあるのです・・・
無作の三身の宝号を南無妙法蓮華経と云ふなり。
イラスト 小川けんいち
元霊断院主任
福岡県妙立寺前住職