大轉輪王小轉輪王。金輪銀輪諸轉輪王。(無量義経徳行品第一)
正法・像法・末法三時のうち、最も恐るべき時代、絶望と恐怖が支配する末法万年の時代に、いったい誰が法華経を流布していくのか・・・。
いわば佛教史上最難関といえる、このミッションに答えんがため、第十五章(従地湧出品第十五)にて満を持して登場された方たちこそが、我らの上行菩薩様(=日蓮大聖人)をリーダーに頂く地涌(じゆ)の菩薩の方々たちだったのです。
この、いわば菩薩グループの永久センターともいうべき、地涌の菩薩の出陣に呼応するが如く、続く第十六章(あまりにもお馴染みの如来寿量品第十六)にて、お釈迦様もついにその神秘のベールを脱がれ、壽量ご本佛たる真のお姿を顕現されることとあいなったのです。
さらに第二十一章(如来神力品第廿一)において、ついに法華経の要(かなめ)たるお題目が、ご本佛お釈迦様から上行菩薩様たちへ託されることとなるわけです。
つまり地涌の菩薩の登場からこそが、法華三部経全体のクライマックス、最大のイベントが目白押しとなるわけです。それはまた後々のお話として、この連載で今回注目したいこと、それはこの法華経の最重要イベントへのフラグは、畢竟(ひっきょう)、薬王菩薩のイベントによって発動している!という点です。
(前回もお話いたしましたように)声聞(しょうもん)(印度でのお釈迦様のお弟子グループ)への成佛預言というお釈迦様ご在世の教化の総決算を終え、次いでお釈迦様ご自身の滅後の問題を語りかけたお相手こそが、この薬王菩薩なのです。しかも滅後の法華経流布への呼びかけに、最初に手を挙げられた方も、やはり薬王菩薩でした。
お釈迦さまと薬王菩薩の会話が進むことによって、それまでお釈迦様ご在世のために説かれていた法華経から、末法のために説かれる法華経へとテーマの一大転換が行われているわけです。
そう、薬王菩薩こそは、お釈迦様ご在世と末法の橋渡しなんですね。
しかも薬王菩薩の活動は、ただそれだけで終わることはありません。
神力品第廿一において、お題目を地涌の菩薩たちへ託されたお釈迦様は、続く第廿二章(嘱累品第廿二)にて、その場に集結されていた全ての聴衆に対し、あらためて法華経を託し、滅後の流布問題を補完されました。
妙法蓮華経八巻廿八品(さらには法華三部経十巻)における一番肝心なテーマはここで完結します。
ゆえに上行菩薩様をはじめとする地涌の菩薩たちは、全員その場から立ち去っていかれます。来たるべき末法のその時まで、お隠れになられたのです・・・。
要するに、これにて法華経一大絵巻ついに一巻の終わり!と、誰もが納得できる状況となったわけです。
されど思いだして下さい。
孔明(こうめい)死すとも三国志演義終わらず。またボドルザー司令率いるゼントラーディ艦隊がミンメイの歌によって壊滅しても、超時空要塞マクロスの放映は終わることなく、さらには世紀末覇者拳王が天に還っても、ケンシロウの戦いの日々は終わらなかったことを・・・。
そうです。実質クライマックスを迎えても、それでお話の全てが完結するわけではないのです。
お題目を託されし地涌の菩薩たちが去って後も、法華経の説法はまだまだ終わりません。
末法の問題がクリアするやいなや、話は一転、話題はなぜか薬王菩薩の前世、過去の因縁談とあいなるのです。
イラスト 小川けんいち
元霊断院主任
福岡県妙立寺前住職