大轉輪王小轉輪王。金輪銀輪諸輪之王。(無量義経徳行品第一)
東方の転輪聖王の証、法華経の要文「四海領掌の偈」をお釈迦様から面授口決(直接に口頭で教え伝えること)された周の穆王(ぼくおう)。
大事な教えを胸中に秘して誰にも洩らさなかった穆王でしたが、寵愛した美少年菊慈童(きくじどう)だけは特別。菊慈童が罪を負い流罪となった際、王は菊慈童に密かに要文を伝えるのでした…。
時は流れて千数百年後の三国時代。魏の文王の勅命を受け、霊水の水源を求めて険しき縣山の山中に踏み込んだ調査隊は、そこで自らを菊慈童と名乗る奇妙なる美少年と出会うのでした…。
私がこの縣山に流刑となることが決まるや、穆王様は思い出の枕を形見にとお授けくださり、その際にそっと二つの句をお教えくださいました。
それこそは王様がはるか天竺で相伝されたという口外法度(こうがいはっと)の「四海領掌の偈」。
私はこの秘文を忘れぬよう菊の葉に書きこんでおりましたが、毎朝その葉から滴(した)たる朝露が川にながれ落ちていくうちに、川の水がこの世のものとも思えぬ甘露の水となっていったのです。
この川の水を飲み続けることで、私はこうして老いることなく元気で生きてこられたのです…」
この不思議な霊水の因縁を明かした美少年・菊慈童は、やがて文帝に罪を解かれ、穆王口伝の教えを伝えるべく下山したといいます。
実はこの菊慈童こそが後の仙人彭祖(ほうそ)であり、長寿のための導引術(気のトレーニング)や房中術(中国古来の養生術。枕と因縁深い故ですかね)の元祖だそうです。
イラスト 小川けんいち
元霊断院主任
福岡県妙立寺前住職