「一時佛住。王舎城(おうしゃじょう)。耆闍崛山(ぎしゃくっせん)中」
戦後最強の横綱大鵬、平成の大横綱白鵬、不祥事で去りし露鵬に若ノ鵬等々と、お相撲さんのしこ名でお馴染みの鵬の字。
その意味は震旦(しんたん)の霊鳥・大鵬金翅?(たいほうきんしちょう)のこと。その体長数千里、天を覆う巨大な羽をひろげ、一飛びで九萬里も飛ぶという伝説の巨鳥です。
その衝撃波はまるでラドンかラルギュウスの如く、この巨鳥が飛ぶ時、家々は倒れ多くの人命家畜が失われるといいます。
この恐ろしい巨鳥を霊鷲山(りょうじゅせん)の霊鷲と重ね合わせる…それは「西遊記」だけの話ではありません。西遊記同様に、震坦の人々の神佛理解に大きな影響を与えたとされる、あの「封神演義(ほうしんえんぎ)」にもまた同様です…
西遊記と封神演義。それぞれの霊鷲山の縁起談に共通ポイント。それは霊鷲山の主は本来は魔物だったということです。
以前ご紹介した斑足(はんそく)王の説話でも霊鷲山は人食い鬼である羅刹(らせつ)の巣窟であったとされます。
魔物の山がなぜ大事な説法の場所となるのか?疑問に思うところでしょう。
しかし実は悪の強い処だからこそ、佛様はここをお経を説く場所とお選びになられたのです。
法華経のご祈祷の中心となる鬼子母神は、元々は子供を喰らう鬼女だったことは有名です。大黒天も本来は血肉を喰う破壊神。三十番神の七日担当の天満宮は元は怨霊の神、同じく二十四日の祇園大明神も疫病神です。
そう、実は篤い信仰を集める神様には本来恐ろしい、怖い神様がおおいのです。マイナスパワーが強いほど、それがプラスに転じれば強烈なご守護となってくださるというわけです。
霊鷲山もまたしかり。鬼神や魔物が巣くう恐ろしい地であるからこそ、そこに佛様がご鎮座されることで、逆に尊い霊地となるわけです。
元霊断院主任
福岡県妙立寺前住職