日蓮聖人降誕800年
日蓮宗全国霊断師会連合会
法華経のお話 法華経のお話

#025
無量義経の段その四
(三)

走れ普明王

「一時佛住。王舎城(おうしゃじょう)。耆闍崛山中(ぎじゃくっせん)」

お釈迦様の時代より遥か以前の超古代の印度は摩伽陀(マガダ)国の物語…

日々に人の子を喰らい続けた斑足王(はんそくおう)は、その非道さゆえに配下であった千王たちの謀反にあい、その王位を剥奪されてしまいました。

されどその人食いの業ゆえでしょうか、斑足は同じ人食いの鬼神たる羅刹(らせつ)たちの王として耆闍崛山の山中に君臨するのでした。

法華三部経の主な舞台となる「王舎城」。今回もこの街の由来についてのお話です。

「千王中最も徳ある王と噂で聞いていたが、情けない!赤子も同然か」と斑足王が嘲笑うと、「ふっ!我が命惜しくて泣きはせぬ、われ生れてよりこのかた、一遍の嘘もつかず。されど最後に当たって修行者との約束を違う…我が言葉が嘘となってしまう…それが、それのみが残念なのだ!」と涙ながらに普明王は訴えます。

自身の命よりも他人との約束が大事とは?

意外な価値観に興味をもった斑足王は暴君ディオニス王の如くに彼を試すべく、修行者との約束を全うしたら自らここに戻ってくるようにと約束させ、七日間の猶予を与えて解放することにしたのでした。

喜び勇む普明王は直ちに王宮に帰還するや修行者とその同行者たちを招き、盛大な法要を催し、彼らに多大なる供養を尽くしました。

走れ普明王

篤い志を示す王に対し、修行者は自身の知る教えを説き示しました。

それは世の無常の理を説く偈(韻文形式の教え)…そう、この時代は無佛の世ではありましたが、古の佛の教えは一部の篤志者たちによって伝承されており、彼らもそのグループに属する者たちだったのです。

無常の偈を聞いた普明王はたちまちに高度な悟りのレベルに到達しました。この世の諸々の憂いは悉く消え去ったのです。

喜びにひたりながら、斑足王のアジトへと進んで舞い戻った普明王は、捕らわれの九百九十九人の王たちにも無常の偈を説き教えました。

素直に普明王の教えを受けた九百九十九人の王たちも又、直ぐに高き悟りを開くことができました。

嘗ては普明王に身命を助けてくれることを願った王たちも、今や普明王の教えによって心の安穏を得たのです。

もはや千王たちは皆、羅刹に殺されることなど、恐ろしくもなんともない境地だったのです…

イラスト 小川けんいち

塩入幹丈

元霊断院主任

福岡県妙立寺前住職

pagetop

TOP