「一時佛住。王舎城(おうしゃじょう)。耆闍崛山中(ぎじゃくっせん)」
お釈迦様の時代より遥か以前の超古代の印度は摩伽陀(マガダ)国の物語…
日々に人の子を喰らい続けた斑足王(はんそくおう)は、その非道さゆえに配下であった千王たちの謀反にあい、その王位を剥奪されてしまいました。
されどその人食いの業ゆえでしょうか、斑足は同じ人食いの鬼神たる羅刹(らせつ)たちの王として耆闍崛山の山中に君臨するのでした。
法華三部経の主な舞台となる「王舎城」。今回もこの街の由来についてのお話です。
さて、紆余曲折の末に羅刹たちの頂点に立つことになった斑足王。羅刹たちを使って日々、人々をさらっては喰い続けていましたが、いよいよ憎い千王たちへの復讐に向かうこととなります。
耆闍崛山の山の神をお祭りし、千王の首を捧げることを誓った斑足王は早速、羅刹たちに千王の誘拐を命じます。
空を飛び神通力を駆使する羅刹たちによって、為すすべなく捕らえられていく王たち。たちまちに九百九十九人の王が山奥に監禁されてしまいました。
ただし山神には首千個まとめて奉納し、残る胴体で大宴会を開く予定の斑足王は、千人が揃うまでは王たちを毒牙にかけようとはしません。
これを最後のチャンスととらえた九百九十九人の王たちは、千王最後にして最高の徳ある男、スタソーマすなわち普明王(ふみょうおう)が助けてくれることに一縷の望みを賭けることにしました。
「はっ!普明の威徳など知らぬ!通じぬ!人の力で羅刹に勝とうなどと笑止!」と、普明王の名声をも気にせず最後の狩りに動きだす斑足王。
一方、何も知らない普明王は池で水浴びを楽しもうと城外へと外出。そこで一人の修行者と出会った普明王は、城に戻ったら彼にお斎を出すことを約束しました。されどせっかくの発願も虚しく、水浴中に普明王は羅刹の急襲を受け、囚われの身となってしまいました。
日ごろの高貴さを忘れたかのように、涙をながし悲しみ悶える普明王…
イラスト 小川けんいち
元霊断院主任
福岡県妙立寺前住職