日蓮聖人降誕800年
日蓮宗全国霊断師会連合会
法華経のお話 法華経のお話

#020
無量義経の段その三
(二)

獅子と人の狭間で

お経の冒頭はいつも「如是我聞(にょぜがもん)」からはじまるもの。『無量義経』もまた、この「如是我聞」によって舞台の幕が開かれます。

その幕あきと共に最初に説かれること、それはお釈迦様がこのお経―無量義経―を説かれた舞台、場所はどこであったかということです。

その場所こそ、後にひかえる「妙法蓮華経」の舞台である、印度佛教史上屈指の有名スポット「王舎城(おうしゃじょう)・耆闍崛山(ぎじゃくっせん)」なのです。

お釈迦様の世を遥かに遡った失われし超古代。この摩伽陀の地に日々、人の子の肉を食らっては民を恐怖のどん底に突き落とし、あまつさえ千人の王を捕らえてはその命を絶たんと願った、恐るべき大王がいたといいます。

子供を食うというのはまるで昔の鬼子母神様。また千人の命を奪わんとする処は、連続殺人犯からお釈迦様の弟子となったアングリマーラこと央掘摩羅(おうくつまら)の所業を思い起こさせます。この二つのエピソードはお釈迦様の数多の伝承の中でも特に血生臭いもの。

その二大エピソードのいわば元祖というべき伝説の持ち主、その名はカルマーシャパーダ、すなわち斑足王(はんそくおう)といいます。

父の名はマガダ(!)すなわち天羅王(てんらおう)。千人の王たちを統べる王の中の王として超古代の印度に君臨し、しかも刑罰制度なしで民を治めた名君と伝えられます。(ちなみにマガダという言葉には他者を害しないという意味もあります。つまりマガタ国とは自国民を誰も害しない国ということなのです)その偉大なる天羅王が、なんと牝の獅子との間に儲けた御子!それこそが彼、カルマーシャパーダすなわち斑足王だったのです。古代メソポタミアの英雄ギルガメッシュの母たる女神リマト・ニンスンは牝の野牛の神ですし、古代朝鮮の初代王たる檀君(だんくん)の母君の真のお姿は熊。

さらにわが日本でも初代天皇たる神武天皇の母君(玉依姫(たまよりひめ))と祖母君(豊玉姫(とよたまひめ))の本当のお姿は巨大な鰐(わに)(龍神(りゅうじん))といわれますし、下って平安時代のスーパースター阿倍清明(あべのせいめい)の母は狐である等々と、古来より傑出した英雄たちの片親が動物とされる場合は多いものです。

それが彼らのパワーの原点とされるのでしょうが、どうもこの斑足王の場合、その出自はマイナスな形で出てしまったようです。そう、獅子の子たる彼は異常に肉が大好きな肉食王だったのです…。

塩入幹丈

元霊断院主任

福岡県妙立寺前住職

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