日蓮聖人降誕800年
日蓮宗全国霊断師会連合会
よろこび法話 よろこび法話

#076
お題目のご縁は必ずどこかで繋がる

島根県益田市 妙法寺聖徒団団長
蔵本知宏

少し前のお話です。

「お上人、息子がおかげをいただきました。護られました。ありがとうございました。」

少々興奮気味にお電話を下さったお檀家の奥さん。この方は、信仰心がとても篤く、毎月都会におられる息子さん娘さんご家族に、倶生神月守を送っておられました。詳しくお伺いすると次のようなことでした。広島で運送会社に勤めておられた息子さんが、見通しの良い道路を走っていると、対向車線を走っていたトラックを追い越そうと、突然乗用車がトラックの後ろから飛び出して来たそうです。まだ少し距離があったので、息子さんはスピードを緩め、乗用車が車線に戻るのを待ったのですが、車線に戻る時にトラックと接触してしまい、乗用車は回転しながら息子さんの方へ向かって来たのだそうです。

お題目のご縁は必ずどこかで繋がる

「あっ、ぶつかる。ダメだ!」

ぶつかった瞬間はよく覚えてないそうですが、気付いた時には両者の車は横転して大破。

「助かった。動ける!」

周りの人たちが車から引き出してくれたそうです。相手の運転手も車から引き出してもらい、お互いしばらくはただ呆然自失。

「お前何してんだ。死ぬかと思ったぞ。」

相手は若者でした。

「申し訳ありません。許して下さい。ごめんなさい。ごめんなさい。」

泣きながら何度も謝る若者に、怒りや興奮が少しずつ治まったそうです。首から下げた小袋を握って泣いていた若者に、

「その袋は何?」

「おばあちゃんがくれたお守りです。仏様に護ってもらえるから、必ず首から下げて持っていろって。子供の頃からずっと持たされてたのですが、今回はなんか自然に握ってました。」

そのお守りを見せてもらってビックリ。それはまさに、奥様が毎月この息子さんに送っておられた月守りだったのです。

「それ私も持ってるよ。こんなことがあるのかね。いや驚いた。不思議だわ。」

母親が送ってくれる倶生神月守を、言われるがままに財布に入れていた信仰心のない息子さんも、さすがにこの時は「俺も仏さんに護られたのかな」と、有り難く感謝したそうです。

しかし、その後奥様が亡くなられてからは、月守りを受けられることはありませんでした。ところが、奥様の七回忌をお寺でお勤めした時のことです。

「お上人、以前お袋が送ってくれていたお守りが、また欲しいのですが」

突然の申し出に少々驚きましたが、

「どうされました?」

「実は、六十五歳で会社は定年になったのですが、七十まで働きたいと、色々仕事を探していたのです。やっとタクシー会社にパート採用されたのですが、これがノルマや何かでなかなか大変でして・・・。十五人一緒に入ったのですが、三ヶ月で残っているのはたった三人ですよ。私も無理かなと思っていたら、この間夢にお袋が出ましてね。」

「ほう、お母様何か言われたのですか。」

「それが笑いながら、大丈夫大丈夫って。」

「それだけですか?」

「そうなのです。でもその時に思い出したのですよ。お袋が送ってくれていたお守り。」

私は、「これは倶生神(ぐしょうじん)月守といって、私たちがお母さんのお腹の中に生命を授かった時から、私たちの両肩に宿り、ずっと護ってくれる神様のお守りです。この神様はその人だけしか護りません。ですからお母様はご家族分の数のお守りを送っておられたのです。

そして毎月の盛運祈願会において、ご先祖様のご回向と皆さんの健康祈願をされておられたのですよ。Fさんもお母様と同じように出来ますか?」と尋ねると、

「はい、お上人私は、信仰のことは何も分かりませんが、きっとお袋は、そのことを私に教えたかったのだと思います。これからも色々と教えて下さい。是非よろしくお願いします。」

それからFさんは信仰をする様になり、同期の中でたった一人七十歳まで無事に勤め上げられました。現在は奥様やご家族と穏やかな毎日を過ごしておられます。もちろん月守りも持ち続けておられます。先輩に、お題目の縁は必ずどこかで繋がると、教えていただいたことを思い出した出来事でした。そして、親はいつまでも子供のことが心配で、ずっと見守ってくれる存在であると、改めて思い知らされました。

お題目のご縁は必ずどこかで繋がる

御本仏お釈迦様が、いつでもどこでも、子供である私たちを見守って下さるように、親もいつでもどこでも、子供のことを見守ってくれているのです。もちろん霊山浄土からも。

〽世を想う 三世諸仏の慈悲心は 親の心と 変わらざりけり

私たちは、常に仏様や諸天善神、ご先祖様から護られているのです。そのことに素直に感謝して、それを形に表すために、報恩のお題目を唱えましょう。そして、困った時や苦しい時には、仏様や諸天善神、ご先祖様に祈りのお題目を唱えましょう。必ず護ってくれると信じて!

「人の心かたければ、神のまほり必つよしとこそ候へ。是は御ために申ぞ。」

日蓮大聖人様のお言葉 『乙御前御消息』
※この記事は、教誌よろこび令和3年9月号に掲載された記事です。

イラスト 小川けんいち

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