日蓮聖人降誕800年
日蓮宗全国霊断師会連合会
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#040
知恩報恩に生きる

島根県出雲市妙本寺修徒
小山 亮廣

知恩報恩に生きる

日本は世界でトップクラスの長寿国と言われています。ところが近年、長寿を高齢化と呼び、社会問題として提起されています。そのひとつの事例として、一人暮らしの高齢者による「孤独死」があります。

「孤独死」とは、誰にも気づかれないまま独りで亡くなることを言います。都市再生機構の調査によれば、団地での孤独死は毎年二百件強に上り、年々増える傾向にあると警告しています。原因は高齢者の一人住まいが増え、別居する家族や地域社会との関係性の希薄化です。体調に異変が起きても、誰にも気付いてもらえないのです。

私が幼い頃は、周囲のお年寄りの方からたくさんのことを教わりました。

水を井戸から手押しポンプで汲み上げていた頃、汲み上げに「呼び水」がいることを教えてくれたのは祖母でした。お風呂を沸かす時の薪の割り方、火鉢や七輪に入れる炭の火起こしも教わりました。日常生活の中にお年寄りの智恵があり、それを教わりながら暮らしていたのを思い出します。

しかし今は、昔とは全く違いとても便利になりました。水道をひねれば水が飲める、お湯も出る、お風呂にもすぐに入れます。電気やガスで料理ができて、部屋はエアコンのお蔭で一年中快適です。このように便利な時代となり、日常生活で智恵を必要とせず暮らせるようになりました。そして智恵を持つお年寄りは必要とされなくなったのです。お年寄りは?昔は良かった?と言います。それは暮らしの中に自分の居場所があったからです。

お釈迦さまは「諸行無常」を説かれました。私たちが暮らす世界に存在するすべてのものは、同じ状態を保つことなく移り変わっていき、永久不変なものはないという教えです。諸行無常だからこそ忘れてはならないものがあると思います。それがお世話になった恩です。

日蓮大聖人は『開目抄』というご遺文の中で、

孝と申すは高(こう)なり。天高けれども孝よりも高からず。又孝とは厚(こう)なり。地あつけれども孝よりは厚からず。聖賢(せいけん)の二類(にるい)は孝の家よりいでたり。何(いか)に況(いわん)や仏法を学せん人、知恩報恩なかるべしや
知恩報恩に生きる

と示されています。親孝行の気持ちは、天よりも高くて大地よりも厚い。聖人や賢人は親孝行の家から出るように、仏法を学ぶものは知恩報恩が大切であると述べられています。私達は父母のお蔭でこの世に生まれ、成長しました。これは「父母の恩」です。また、昔は便利な道具が少なく、家事をするにも力を使い時間がかかりました。それを支え助けてくれたのが、周りの多くの方々です。私たちは多くの人の手を借り、お世話になったから今があるのです。これを日蓮大聖人は「一切衆生の恩」とされています。平和な日本に住める喜びを大聖人は「国の恩」とされ、水や空気などの大自然の恵みは「仏の恩」と教えられました。

  • 父母の恩
  • 一切衆生の恩
  • 国の恩
  • 仏の恩

この四つの恩があってこそ自分があるのです。四つの恩を知り、自分が生かされていることを知ることが「知恩」なのです。そして恩に報いることを「報恩」といいます。諸行無常の中で暮らす私たちは、変わらない恩を知り、常に恩に報いることが大切です。

私たちは、南無妙法蓮華経のお題目を日々唱え、倶生神月守を着帯し、九識霊断法のお導きをいただき、知恩報恩の姿を現すことで、孤独死などのない安心した世の中になる事でしょう。

イラスト 小川けんいち

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