日蓮聖人降誕800年
日蓮宗全国霊断師会連合会
よろこび法話 よろこび法話

#024
感謝の気持ちとともに

長野県飯田市 経蔵寺聖徒団 団長
望月 龍賢

私の住む長野県南部は、諏訪湖を源とする天竜川の流れに沿った伊那谷と呼ばれ、西には木曽山脈(中央アルプス)、東には赤石山脈(南アルプス)がそびえる緑豊かな地域です。

内陸性の気候で高地であることから冬の冷え込みは非常に厳しいですが、比較的雪は少なく冬場の日照もあり、長野県の中では春の訪れの早い地方でもあります。

感謝の気持ちとともに

梅、それから桜と、春を待ちわびて木々が花を咲かせる時期になると冬の厳しさ故に本当に心が軽くなる心もちとなります。

当山の境内の三本の桜は、いずれも樹齢二百五十年ほどになる古木ですが、毎年毎年変わらずに見事な花をつけてくれます。

暖冬で開花が早まりそうだと耳にする年も、今年は冬が厳しかったから花が遅いと聞く年も、さほど変わらず決まった時期に花を咲かせます。

四月一日の盛運祈願会では、その桜が八分咲き位の年が多く、お勤めの後には回廊にお茶を用意し皆でお花見を楽しみます。その席で聖徒の方からこんな話をしていただきました。

「うちのアーモンドの花が咲くとお寺さんの桜が咲くの。だから、庭先のアーモンドの花をみるとお寺に桜を見に行こうって思うの。ほんと、毎年そうなの。不思議よね。」

何気ない会話で気にも留めてなかったのですが、その年の五月中頃、地区のお寺に葬儀のお手伝いに行った時のことです。とても印象に残る会話がありました。

伊那谷の葬儀は、通常、菩提寺のお導師さまの他に三人もしくは四人の伴僧さんでお勤めします。そして、葬儀の前後に食事があり、お相伴と呼ばれる接待係の方と席を同じく頂きます。そんな席でのこと。

お相伴さんが伴僧の一人に尋ねました。

「今年の牡丹はどうかね?早いかね?」

「うーん、少し早いかなぁ」

と牡丹寺として地域で知られたお寺のご住職が答えます。続いて、そのご住職がもう一人の伴僧さんに話を向けます。

感謝の気持ちとともに

「あじさいはどうかね?」

答えるのはあじさい寺の若上人です。

「例年どおりですかね。でも、不思議ですよね。時期が来れば毎年同じように咲くのですから。花は気温だけじゃなくて、地中の温度が一定の温度になると花芽をつけるようになるんですってね。」

お相伴さんが

それじゃあ根が温度をみてるんだなぁ、すごいもんだなぁ」と言うと

「やっぱり根っこって大事なんだねぇ」

お導師が最後におっしゃいました。

四季折々、穏やかな時ばかりでなく、ときに自然は厳しい姿をみせます。そうであっても、花は決まった時期に同じように美しい花を咲かせます。当たり前ですが、すごいことです。

帰りの車を運転しながら、「根っこが大事か」と思い起こし、同時に春桜の木の下での聖徒さんとの会話もよみがえってきました。

日頃何事もなく過ごしていると気にも留めずにいることですが、これまた何気ない会話で「はっ」と考えさせられた時間でした。

花は根にかへり真味は土にとどまる

報恩鈔

私たちの「根っこ」はどこにあるでしょうか。見えないものへ想いを寄せているでしょうか。

「有り難い」という気持ちこそが信仰の本となるものです。ご報恩の気持ちとともに、そして、ご報恩の気持ちを忘れることなく、ご一緒にお題目をお唱えしてまいりましょう。

※この記事は、教誌よろこび平成28年10月号に掲載された記事です。

イラスト 小川けんいち

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